当工房の塗装方法は基本的にオイル仕上げ(オイルフィニッシュ)を採用しています。
オイル仕上げとは木が本来持っている木味や艶を自然のままに生かす塗装法のひとつで、比較的メンテナンスも容易にできるため、無垢材で作られた家具を末永くお使い頂くには最適と考えています。
しかしオイル仕上げはオイルが浸透して固まる性質を利用するため、木の風合いを生かす半面、他の塗膜を形成するウレタンやラッカー塗料に比べると汚れやシミに対する保護力が劣るのは否めません。
そこで今回は、そもそも家具塗装の一般的な塗料の種類とその特徴をご紹介することで、当工房で採用しているオイル仕上げのご理解とその魅力が少しでもお伝えできたらと思います。
※オイル仕上げのメンテナンス方法を知りたい方はこちらの記事をご覧ください⇩
一般的な木製家具塗装の選択肢
無垢家具の木材に考えられる仕上げ方法では、大きく分けて二つの選択肢が考えられます。
それは塗膜をつくるかつくらないか。
この二点です。
塗膜の有無
塗膜は木材を汚れや水分から守ってくれますから日常の手入れは楽になるでしょう。
反対に塗膜が無ければ汚れや、水分によるシミが付き安くなります。
しかし塗膜を付けるということは大なり小なり、せっかくの木のぬくもりを手触りから感じ取ることを難しくさせます。
どちらにも一長一短があるわけですが、ここで主張したいのは塗膜をつくらないオイル仕上げにおいても、防汚、防水効果が得られないわけではないことです。
木の風合いを残しつつも、程度の差こそあれ、汚れ、シミ防止効果も得られるので、ごく普通に使っていただければ極端に汚れたりしませんし、シミに対しても水分が付着したまま放置しなければ問題ありません。
木の本来の魅力を引き立たせることと、外的要因からの保護。この点だけでも一挙両得なのです。
ウレタンとラッカー
一方、どうしても汚れやシミを徹底的にブロックしたい、といった場合で尚且つ、見た目に木目を残す(透明)木製家具の塗装では一般的にウレタン塗装かラッカー塗装が主流です。
そして今では強い塗膜を形成でき、使い勝手も良いウレタン塗料が王道となっていますが、見分け方としては目立たない箇所で少しアルコール液を付けてみて、溶ける(剥げる)様でしたらラッカーの可能性が高いです。
しかし今ほど高性能なウレタン塗料ができる以前(ウレタンは昭和30年頃から登場)の家具塗装ではラッカーが主流だった時期があります。
ラッカーとは、本来はニトロセルロース(硝化綿)を主成分とし、天然樹脂系統のものとともに揮発性の溶剤に溶かしたものを指しました。
ところが昨今ではラッカーというワードは揮発性の溶剤を使用した速乾性の塗料の総称として呼ばれることも多く、アクリル系統の合成樹脂塗料等でも商品名に「ラッカー」と名付ける商品が普及しています。
これらの塗料はどちらかというと扱いやすさを重視したDIY向け商品に多いので本来のラッカーとは別物と考えた方が良いです。
一方、本来のニトロセルロース(硝化綿)を主成分としたラッカーは、登場した当初から強固で耐水・耐油性に富み、磨くほどに美しい塗膜を維持できる、といった長所があり、今も尚、高級家具やバイオリン、ギターなどには、あえてウレタンよりもラッカー塗装が選ばれることもある様です。
また、今現在アンティーク家具として流通している家具の多くはこのラッカー塗装であるため、リペアの際にも本来のニトロセルロース(硝化綿)を主成分としたラッカー塗料が最適でしょう。
ちょっと家具とは違いますが、ビンテージギターなどではあえてラッカー特有のひび割れ(ウェザーチェック)を好む愛好家も少なくないことからも、ニトロセルロースを主成分としたラッカーは比較的通好みの塗料とも言えそうです。
一方で特にこだわりなく塗膜を付ける塗装では量産家具を中心に、先に挙げたウレタン塗料の方が強靭で、施工効率も良いため、目にする機会は多いと思います。
そして重要な点ですが、ラッカーやウレタン塗装は刷毛でも可能ですが、刷毛目がついてしまうので、綺麗に施すためにはエアースプレーによる吹き付けと硬化後の研磨を繰り返し行うことが必要なので、
この点でDIYではハードルが高い塗装法です。
このためユーザーが自身でメンテナンスするのは現実的ではないため、その都度プロに依頼する手間とコストがかかることになります。
ラッカーとウレタン、オイル仕上げのメリットとデメリット
私見も含まれますがここまでの特徴をまとめると下記の表となります。
ラッカー | ウレタン | オイル | |
---|---|---|---|
メリット |
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デメリット |
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ラッカーやウレタンの様に塗膜を付ける塗装では、いずれも定期的なメンテナンスフリー(特に自身で追塗装などをする必要がない)、というメリットがあります。
これはオイルフィニッシュと比較した場合によく言われている部分ではあります。
しかし、私の経験上、オイルフィニッシュの家具であっても極端に粗末な扱いをしなければ、ラッカーやウレタン同様の扱いをしたところで、何か問題が起きるわけではありません。
塗る材料が合板などの木質系の材料の場合は、削り直しができないことやオイルが浸透する隙間が少ない事、そもそも数十年以上の使用は考えられていない事からも、むしろラッカーやウレタンの方が相性が良いと言えますが、無垢材の場合はラッカーやウレタンのメンテナンスフリーというメリットよりもそれぞれのデメリットの方が影響が大きいと思います。
これはオイルフィニッシュと比較した時の大きな違いですが、塗膜を付けないオイルフィニッシュの場合、例え打ち傷ができたとしても、もともとの自然素材の持つ風合いに違和感なく溶け込むので、特に気になることはありません。
それどころか長年使いこんでいるうちに付いていく傷が、実に良い味わいとなっていくことも期待できます。
ところが、塗膜がある場合、それが厚ければ厚いほど、一度傷をつけてしまった際には、透明な塗膜とは言え、それはプラスティックのような樹脂素材なので、ぽろっとかさぶたの様に剥がれたり、或いは日焼け後の皮膚の様に、非常にみすぼらしく感じてしまうことが考えられます。(主観的な部分ですの一概には言えませんが、多くの方はそう感じると思います。)
例えばテーブルだとおそらく数年間でその様なことは起こり得ますが、一度そうなってしまうとDIYでは修理は難しいので必然的に比較的大きなメーカーの工場などで剥離、再塗装を行わない限り、修復ができません。その際の費用も結構嵩むこととなります。
この点において、オイルフィニッシュであれば、傷は気になりにくいですし、最悪、剥離、再塗装をしたければ、当工房のような小さな家具工房でもウレタンなどより安価にできますし、DIYが好きな方であればご自身でも再塗装や、追塗装によって楽しみながらメンテナンスでき、そうすることで一層の愛着も湧いてくることにつながると思います。
その他の塗膜を付ける塗料
漆
ウレタンやラッカーは家具塗装の主流ですがその他にも家具塗装に向いている塗料と言えば
最も歴史の古い漆があります。
漆の特徴はいくつもありますが、津軽塗などに見られる色彩豊かな漆器の様に、塗りつぶして光沢を醸し出すこともできるし、江戸指物などに見られる拭き漆の技法の様に、拭きあげながら塗膜を薄くすることで、木目を美しく生かすこともでき、その使い方は幅広くも奥深い塗料です。
魅力あふれる漆ですが最大の短所と言えば、施工中のかぶれ、でしょう。
人によりかぶれに強い方もいらっしゃるようですが、ほとんどの人は漆が皮膚に付着すれば大なり小なりかぶれると思った方が良いぐらいかと思います。
私もひどくかぶれた経験がありますが、正直言ってできればもう漆は扱いたくない、と思うくらいひどい症状でした。
ただそれでもまた機会があれば、と思ってしまうくらいの魅力は感じています。
それともう一つ、漆が扱いにくいのは、その乾燥の仕方です。
一般的な塗料と違い、漆は一定の温度と湿度に反応して化学反応により徐々に乾いていきます。
漆の乾燥条件
温度 | 24℃~28℃ |
湿度 | 70%~85% |
空気 | 風がなく、空気が動かない場所 |
一般的な塗料は洗濯物を乾かすのと変わりなく、温度は高く湿度は低く、風通しが良い方が早いですが、漆は温度は高すぎてもダメで、湿度は高めで無風状態、という環境が必要なため、専用の乾燥部屋や室(ムロ)をあえて用意しなくてはなりません。
これも漆のハードルが高くなる要因です。
カシュー塗料
漆は性質が幅広く魅力的ですが上述したように「かぶれ」や「乾燥」に難点があります。
この問題を解決してくれるのがカシュー塗料です。
「カシュー」とはカシューナッツの殻から絞り出されるカシュー樹脂を主原料とした塗料ですが、カシューの木も漆科ということもあってか、塗膜の肉もち感や光沢具合が漆と見分けがつかないくらい似ています。
その上カシュー塗料は漆の欠点である「かぶれ」の問題はなく、「乾燥」も通常の塗料と同じですの扱いやすく漆に似た仕上がりを実現できます。
但し、あくまでも本家、漆の歴史は非常に古いため、その実力はお墨付きで、長い目で見た時の耐久性はカシューに限らず他の様々な塗料より圧倒的に優れていることははっきりしているし、似ているとはいえ、漆に精通した方からすると、似て非なるもの、とも言われます。
因みに「カシュー」はそのままメーカーの会社名となっているためか、商品は「油性漆塗料 カシュー」や「カシュー樹脂塗料」とも呼ばれています。
石鹸(ソープフィニッシュ)
石鹸の泡を塗りこむことでうっすらと表面をコーティングすることができます。
ヨーロッパでは古くから使われている塗装法のひとつですが、ソープフィニッシュの最大の特徴は塗装後も明るい色を表現できること、つまり塗った後も濡れ色にならず、本来の木地の色を維持できることにあります。また、肌触りが非常に滑らかでなんとも絶妙な艶感となります。
一年に一、二度位の頻度で繰り返し行っていく毎に、塗膜もしっかりキープでき、木地の経年変化と合わさり、なんとも言えない良い風合いが増してきます。
また、自身で簡単にできるので愛着も湧いてくると思います。
ただし普通はブナ、ナラ(オーク)、ハードメープルなどやや比重が高く(表面が緻密な方が良い)広葉樹の明るめの材料でないと、その効果は十分には発揮できないので、樹種を選ぶこととなります。
素地を生かした表現以外の保護力などでは他の塗料に劣りますが、天然素材にこだわりたい方や、自身でもメンテナンスしながら経年変化も楽しみたい方にはオススメできます。
ワックス
ワックスもソープフィニッシュやオイルフィニッシュ同様、木の質感を残したい場合に有効な塗料でクリア以外にも、各種色付きの塗料を選べば着色がコーティングと同時に行えます。
wax(ワックス)とは蝋のことで、主なところではミツバチの巣から抽出する蜜蝋やカルナバ蝋と呼ばれる椰子の葉から得た天然成分もあれば、原油から精製してつくるパラフィン系のものもあり、他にも調べてみるといろいろとありますが、実際にはそれらを混合したり、他の合成樹脂を加えたりした商品が主流です。
商品によりさまざまですが基本的にワックスは熱に弱く、密着度が低いので耐久性は乏しいです。
特に頻繁にふき取りを行うテーブル天板やカウンターなどではメンテナンスも頻繁に必要となるでしょう。
また、木の質感は生かせるものの、塗膜がそれなりにつくので、オイルフィニッシュの様にダイレクトに温もりを感じることはできません。
簡単に塗膜を形成したり着色したり、艶感を出したい時に有効なワックスですが、その手軽さゆえに、安易に塗ってしまうとその上から他の塗料を塗ることができなくなる上、剥離するのも結構大変な作業となります。
また、パラフィン系の成分が使われることも多く、その場合乾くまでの匂いがかなりきついので、その成分も含めて意外と注意が必要な塗料かと思います。
その他
他にも塗料の種類はたくさんありますが、無垢材の家具に使えるとすればポリエステル樹脂。これはピアノの塗装に使われている、と言えばイメージしやすいですね。
肉厚に塗れて磨き上げることで鏡面仕上げができるので高級志向なキッチン周りの扉やテーブルの天板などでも使われているようです。
その他にもウレタン以上に強靭な膜をつくれるシリコン樹脂やフッ素樹脂塗料などがあったりしますが、これらは耐候性や、防水、防虫、防腐性等が求められる屋外の木部に利用されるもので、屋内の家具には美観的にもコスト的にも健康面においても不向きかと思います。
最後に
以上、ざっとではありますが一般的な家具塗装に使われる塗装(塗料)についてご紹介させていた来ました。
主観が混じった面もあったかと思いますが、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
最後に、無垢材のテーブルトップなどで塗装の再塗装をお考えの方にお知らせさせていただきます。
当工房では天然木の無垢材にオイル塗装、というのが定番のスタイルとして、日々、家具を製作しています。
もし、お手持ちのもので何か塗り替えなどをお考えのようでしたら、是非とも一度お問い合わせ頂きたく思います。
ウレタンやラッカーの仕上げは不可ですが、素材が無垢材でしたら、現状がウレタンやラッカーなどの塗膜のある塗装であったとしても、オイル仕上げに変更することが可能ですので、お手持ちの家具の素材が何か分からなくてもメール等で写真をお見せいただければご回答できると思いますので、お気軽にご連絡の程、お待ちしております。
Email: mail@kigurashi-kagu.com