ラダーバックチェア(スラットバックチェア)とは
このページでは当工房のラダーバックチェアを紹介させて頂きます.
まずは「そもそもラダーバックチェアってどんな椅子?」という方のへ向けて説明させて頂きますと、
LADDER:はしご
SLAT:薄板、平板、薄くて細長い一片(※他に、シャッターやブラインドの薄板の部分、航空機の主翼の前縁部に装備する高揚力装置の一種。)
BACK:背、背中、背部、(正面に対しての)背面
ということで「ラダーバックチェア」を直訳すると”はしご状の背もたれのある椅子”と言うことになり、おおよそ想像がつくかと思います。
根本的に、背面部が2本の柱で横に細長い部材を挟む様に、つまりハシゴの様に組まれた椅子の事で、柱に挟まれた横長の部材のことを「スラット」と言うことから、「スラットバックチェア」とも呼ばれています。
ラダーバックチェアの例
ラダーバックチェアで有名なところでは、1774年頃にイギリスよりアメリカに渡った※シェーカー教徒が東部各地で家具づくりを始め、1850年頃に「ラダーバックサイドチェア」を発表し、代表作の1つとなります。
※キリスト教プロテスタントの一派でリーダーはアン・リー。
1774年に9人のシェーカー教徒はイギリス、リバプールからアメリカのニューヨークへ渡り、ニューイングランドやニューヨーク州周辺にいくつかのコミュニティーをつくる。
その後、自給自足の生活をしつつ、自分たちの使う家具を作るうち、外部にも販売を始めた。
また、スコットランド出身の建築家、チャールズ・レニー・マッキントッシュ(1868~1928)は、自身が手がけた建築「ヒルハウス」に置くためにラダーバックチェアをデザインしたところ、その独特なデザイン(背もたれが異様に高く、黒塗り)、で目を惹く存在感を放ち、世界中から注目を集めました。
出典元:https://www.cassina-ixc.jp/shop/g/ghill-house1/
そして他にも、ラダーバックチェアのデザインで有名なのがフィンセント・ファン・ゴッホが描いた「Van Gogh’s Chair(ゴッホの椅子)」に、ゴッホ自身が作業椅子として使っていた典型的なラダーバックチェアが描かれていますが、これは1888年に南フランスのプロバンス地方に於いての作品です。
そもそもこの手の素朴なスタイルのラダーバックチェアは1600年代からそのルーツが各地で確認されていて、オランダ様式のアメリカ初期の家具にも見られるし、アメリカのニューイングランド地方では17~18世紀に幅広く作られ、使われていたそうです。
久津輪 雅氏著、「ゴッホの椅子: 人間国宝・黒田辰秋が愛した椅子。その魅力や歴史、作り方に迫る」ではこの椅子についてとても追及された情報が網羅されていますが、その中でも
1963年頃、陶芸家で民芸運動にも貢献した濱田庄司は実際にスペイン南部の村まで旅し、そこで手工芸による生木でつくられたラダーバックチェアをつくる光景に出くわし、その仕事に感銘を受け、日本にも輸入、紹介しているが、それはまぎれもなくゴッホの絵画に描かれているラダーバックチェアと類似するものだった
久津輪 雅氏著、「ゴッホの椅子: 人間国宝・黒田辰秋が愛した椅子。その魅力や歴史、作り方に迫る」
とあります。
この書籍では実際に古くから伝わるグリーンウッドワーク(生木のまま手工具のみで行うモノづくり)
による製作工程まで紹介されていて、私もこの椅子のデザインに非常に魅力を感じました。
キグラシ家具工房のラダーバックチェア
上記の書籍に影響され、さっそく自身でもこの椅子を模倣して製作してみたのですが、グリーンウッドワークの手法だと結構、感覚に頼った(頼らざるを得ない)技法を使っているので、製品としてクオリティーを一定に保つには繰り返し、熟練の技が必要だと感じました。
シンプルで素朴なデザインが魅力な椅子ですが、これはもともと、庶民が費用をかけずありあわせの材料を使い、手作りで作ってこその椅子なのかもしれません。荒々しい仕上げ方が逆に魅力を引き立てます。
しかし、それでいて、生木が完成後に乾いていく過程をも踏まえたそのノウハウは、椅子作りの原点ともいえるような技術が備わっています。
今、日本国内ではそう見かけないこの椅子を商品として製作するべく、考えた結果、私の場合は不安定な生木ではなく、乾燥材を使い、サイズや仕口部分も自分なりに改良して製作してみました。
欧米発祥のグリーンウッドワークとは?
通常、家具製作に使用する木材は伐採後の含水率が高くても12%以下になるまでしっかり乾燥させてから使うものですが、例外として未乾燥の生木を、その性質を理解した上でそのまま使ってしまうやり方があります。
このタイプの椅子も欧米では古くからそんな「グリーンウッドワーク」と呼ばれる工法によりつくられてきた中に見られるデザインで、座面にもガマ(ガマ科植物)などの自然素材が使われてきました。
角度こそ付いていますがグリーンウッドワークでは、すべて手工具により、割ったり削ったりの作業でつくられるので、何ともシンプルで素朴な仕上がりとなります。
ただし、グリーンウッドワークは基本的に自分たちの生活道具を自分たちでつくる、いわばDIYの真骨頂のような世界です。
手工具だけでつくられたそれらはとても奥深く楽しい作業によるものですが、製品としての安定性を保つのは困難です。(特に日本では受け入れられにくい気もします。)
そこで当工房ではこの形状のみを活かしつつ、日本でも古くから伝わるオーソドックスなホゾ組加工でつくることにしました。
材料ももちろんしっかり乾燥しているものを使用し、必要に応じて木工機械を使うことで、見た目の素朴さは残しつつも、堅牢で安定した商品として、末永く使い続けることが出来ると思います。
ただし、座面にはい草縄を使用していますので、こちらは消耗品とお考え下さい。
使い方や使用頻度に寄りますが、定期的に張り替えが必要となってきます。
もちろん当工房でも張り替えは承りますが、DIYがお好きな方はご自身で張ってみるのも楽しめるかもしれません。きっとより一層、愛着が沸くことでしょう。
上の写真は小さな子用につくったもので材料は左からアルダー、ケヤキ、タモ(白塗りエイジング加工)を使用しています。
デザイン上、背もたれはフラットなため、決してゆっくりとくつろぐ用途には向きませんが、座面は心地良く座れますし、作業用椅子として、或いはちょっと庭先に持ち出したり、とにかくガンガン使い込むほどに味のでる木製椅子です。
比較的軽いため、スツールのような感覚でお使い頂ける椅子かと思います。
ラダーバックチェアⅠ【LBCー1】【LBC-C】
サイズ(㎜)
大人用:W約445×D約390×H800(座部H420~435)
子ども用:W約290×D約255×H400(座部190~210)
重量
大人用(ケヤキ):約4.5~5㎏
子ども用(ケヤキ):約2㎏
※無垢材ですので個体差が大きいです。おおよそのご参考程度にお考え下さい。
ラダーバックチェアⅡ
こちらはラダーバックチェアⅠを基に、フレームと仕上げの仕様を、荒々しい素朴なものから上品な高級感あるものに替え、座面はイ草縄からペーパーコード張りに替えたものです。
フレーム形状はⅠと同一ですが雰囲気はガラリと落ち着いた印象に変わりました。
ラダーバックチェアⅡ
サイズ(㎜)
W約445×D約380×H800(座H420~435)
重量
約5㎏
※無垢材ですので個体差が大きいです。おおよそのご参考程度にお考え下さい。
材料
タモ
塗装
ステイン着色後植物性オイル
ラダーバックチェアⅢ
そしてさらに発展させ、ダイニングやデスクワークにオススメのラダーバックチェアをつくりました。
ラダーバックチェアとは背もたれ部分がラダー(ハシゴ)のような椅子を意味するので、背もたれ部分にはスラット(横方向の部材)が2本しかないこの椅子をラダーバック、と言うのは微妙なところかも知れませんが、当工房では後背部の構造で区別することとしました。
椅子のデザインは家具の中でも気を遣う要素が多いので奥深くむずかしいですが、今回特に意識したのは重さと丈夫さのバランスです。
椅子は上からの荷重だけでなくいろんな方向にもそれなりに力が加わるため、デザインする時についつい材料を多く(太く)見積もってしまいがちですが、そうすると非常に重く、動かす度にその重さにストレスを感じてしまう結果となります。
そんな結果を避けるために、極力各部材を薄く、細くとる事から考え、そこから強度を確保していくように仕口を考えていきました。
また、ペーパーコードの座面は軽量化との相性が抜群なだけでなく、座部の強度にも一役かってくれています。
貫や足先にかけては大きめの切面を設けることで少しでも重さをカットすると共に見る角度で動きのでるシルエットを表現しました。
どこからみても程よいバランスに仕上がったと思います。
ラダーバックチェアⅢ【LBC3】
サイズ(㎜)
W約435×D約480×H800(座部H430~445)
重量
約4㎏
※無垢材ですので個体差が大きいです。おおよそのご参考程度にお考え下さい。
材料
タモ
塗装
植物性オイル(クリア)